飯より学びを優先したくなる勉強会の設計 ~P2P型勉強会の提案~
ある日、電車で会った友達に「ブログ見ました!家庭教師の話熱かったです!」と言われて、僕の心も熱くなりました。その記事がこちら
こんにちは、岩崎です。今日は、この記事を超えるような熱い内容を書いていきたいと思います。
先日、Unityでサクッと通信対戦ゲーム!-Unity+Photon開発勉強会というイベントの講師を担当しました。
Unityの講師は今回で3回目で、1,2回目はLife is Tech!の大学生メンターになるための研修の講師でした。
今回のUnity勉強会の状況は
- 参加人数10人
- 教える内容:リアルタイム通信対戦の実装の仕方
- 時間:10時から18時まで
- 受講者レベル: 基礎はできているというレベルからハッカソン優勝者レベルまで
- 場所: ヒトクセ(素敵なオフィス)
と少人数での勉強会でした。それで後日勉強会のアンケート結果を見てみると...
5段階評価の平均で
- 満足度: 4.88
- 理解度: 4.33
- わかりやすさ: 4.55
とかなり高評価をいただいておりホッとしました。ありがとうございます。
しかし、僕がこの勉強会で受講者の前に立ち話した時間は全体8時間のうち30分しかありませんでした。そのうち実装について前で説明したのは3分だけです。それにもかかわらず、満足度も理解度もわかりやすさも高評価だった理由を分析し、それを書きたいと思います。
今回のキーワードはP2P型勉強会です。P2P型勉強会という名前は僕が勝手につけたものです。
この記事では、この勉強会を、どのような考えで、どのように実行し、どのような結果になったのか備忘録として書きたいと思います。そして、皆さんの何か視点を変えるキッカケになればなと思います。
また、今回教える立場の人間を「講師」と呼び、教わる立場の人間を「生徒」を呼ぶこととします。教わる側が大学生なのに「生徒」と呼ぶのは多少違和感ですがご了承ください。
P2P型勉強会とは
P2Pとは、ネットワーク上で対等な関係にある端末間を相互に直接接続し、データを送受信する通信方式。また、そのような方式を用いて通信するソフトウェアやシステムの総称である。(引用 P2Pとは|Peer to Peer|ピアツーピア - 意味/定義 : IT用語辞典)
ということで、元々はインターネットの通信方式の言葉で、勉強会や教育とは関係のないの言葉です。
今回わかりやすく説明するために、従来の授業スタイルと思われる勉強会を「クライアント・サーバー型」と勝手に名づけて説明したいと思います。
勉強会の基本的な進め方
左側は、講師が前に立ち、スライド等を使って説明しています。生徒は講師の説明を聞きながらメモを取ったり、作業を進めたりします。右側は、生徒が教材を手元に持っていて、自分のペースで進めています。講師は外から様子を見守ります。
質問対応や理解の確認をどう行うか
左側は、講師が質問に対応したり、また全体に向けて問題を出したりして理解の確認をします。右側は、生徒同士が質問したり理解を確認したりします。講師も生徒と対等な立場のつもりで、質問に対応したり、理解の確認をします。(生徒の中で一番知識がある人というイメージ)
特に2枚目にある質問対応のスタイルが、P2Pの通信と似ているのが、この名前をつけた理由です。
なぜP2P型勉強会を選んだのか
先ほどの2枚の写真を見ながら見て欲しいのですが、従来の方法、つまりクライアント・サーバー型勉強会スタイルで、プログラミングの勉強会を行うことに限界を感じていたからです。
僕が思う問題点は
- 全体でスピードを合わせなければならない。つまり遅い子に合わせなければならない
- よってスピードが早い子が暇になる
- 講師の全体への説明が、生徒全員にとって聞きたい情報とは限らない
- 生徒が増えると、質問への対応が大変になる
です。これらの問題点を解決しようと思って考えたのがP2P型勉強会です。
1,2番目の問題については、教材が手元にあるため、生徒は自分のスピードで進めることができます。
3番目の問題については、P2P型勉強会では、教材の演習問題によって考えさせるタイミングを作り、その後の他者との対話によって理解を深めてもらいます。ここでは双方向のコミュニケーションが行えているかというのが重要で、一方向のコミュニケーションでは、先生の説明が生徒にとって聞きたい情報かどうか判断できません。
4番目の問題については、P2P型勉強会では、生徒も教える側に回ります。そうすると、講師は1人に教えることで、全体に最終的には伝わるようになります。このようにすることで、講師は、その勉強会で最も進みが早い生徒の質問や、難しいクリティカルな質問に集中することができます。
(4番目の問題点は、通信の方のクライアント・サーバー型の通信の問題点と似ていますね。その問題を解決する方法が実は通信のP2P通信だったりします)
(当日使用したスライドから)
P2P型勉強会の課題
- 教材に高いクオリティが求められる
- 勉強会のルールや雰囲気作りに失敗が許されない
主にこの2つだと思っています。P2P型では、全体での説明を行わないので、教材のクオリティが命です。教材がわかりにくかったり、楽しめるものでないと、生徒が途中で折れてしまったり、飽きてしまったりします。
僕の場合は、いつも自分で教材を作っているのですが、昔予備校チューター時代に受験生向けに冊子を作ったり、サークルで本を出版したり、LifeisTech!でも中高生向けの教科書を作ったりした経験があったので、そんなに苦労しませんでした。
2つ目は、P2P型は生徒が主体となって動いてもらわないとうまくいかないので、勉強会のルールや雰囲気がとても重要になってきます。これに失敗すると、ただただ辛い勉強会になってしまいますこ記事では今回の勉強会で行ったことを、形式化してお伝えしますので、一例として参考になれば幸いです。
勉強会を行う前に考えていたこと、勉強会を終えて考えたこと
それでは、今回の勉強でどのように事前に考え、どのように実行し、どのような結果になったのか紹介します。
勉強会のおおまかな流れ
勉強会は、導入タイム・学びタイム・発表タイムに分けて僕は考えます。それぞれ重要なことが違います。
導入タイムは、自己紹介と勉強会のルール (グラウンドルールと呼ぶらしい)を生徒に共有します。
学びタイムは、生徒に教材とチェックシートを渡し、基本的には生徒の自由時間です。質問があれば丁寧に答えます。
発表タイムは、生徒の勉強会での作品を、周りの人に発表してもらいます。
それぞれ具体的にしたことと考えていたことを書いていきます。
導入タイム
導入タイムでは、前でスライドを見せながら説明しました。前で話すのは基本この時間だけです。
まず、想像して欲しいのが、生徒は最初、不安で緊張しているということです。避けたいパターンは学びタイムの時に「どういうノリでいったらいいかわからない」という状態と「知らない人が周りにいて、変な空気で作業を進める」という状態になることです。
これを解決するのが、導入タイムです。
僕はこのような順番で進めました。
- 講師の自己紹介
- 勉強会の全体の進め方とルールとどんなノリで行きたいかを伝える
- 生徒の自己紹介タイムをつくる
- チームを作ってもらい、チーム名を決めてもらう
重要なのは、自己紹介と勉強会のノリや全体像を最初にしっかり伝えることだと思っています。
自己紹介やチーム名決めは「知らない人が周りにいて不安/緊張」という状態を少しでも無くすのが目的です。そのためのキーワードとして自己開示と他者理解があります。これによって、人間は初対面同士でも安心してその場にいやすくなるそうです(元々心理学の言葉です http://yamazakitakashi.net/column/1039/)
自己紹介は自己開示が目的
自己紹介をなぜするのかといったら、その人がどんな人か知っている方が、人は安心するからです。なので、自己紹介タイムは必ず作りましょう。生徒の自己紹介タイムでは、こちらで自己紹介の型を準備しました。今回はAパターン、Bパターン自己紹介というのを使いました。
(実際に使ったスライド)
Aパターンでは、普通の自己紹介 (例えば、名前、出身、大学名、趣味など)をしてもらい、Bパターンでは、意外な一面や、実は私...のような話をしてもらいました。
Bパターン自己紹介によって、生徒により深い自己開示をしてもらいます。
チーム名決めで他の生徒との共通点を見つける
チームは3人一組になってもらいました。P2P型勉強会を考えるときに、対話の相手に困った時に大丈夫なように、チームを一応組んでいます。ここでチーム名を決めてもらうのですが「チームメンバーに共通したものをチーム名にしてください」というルールにします。5分間で決めてもらうのですが、決める過程で、お互いの趣味や好きなものをたくさん知ることができます。つまり自然と他者理解をすることを狙っています。
(チーム名決めの様子)
学びタイム
学びタイムでは、教材とチェックシートを渡します。教材にもたくさん考えるべきポイントがあるのですが、今回は割愛します。今回覚えておいて欲しいのは、教材には演習問題が4つほどあるということです。
基本的には、自由時間で、生徒にはチェックシートでやることを確認してもらいながら教材を進めてもらい、質問があったら対応するというスタイルでした。
P2P型勉強会の肝、チェックシートのルール
チェックシートというのは、実際に下のようなものを使いました。
重要な点が3つあって、1つ目はここまで全員クリアしようというラインを提示すること、2つ目は早く終わって応用がしたい人のためのチェック事項を準備すること、3つ目は、終わったかどうかチェックするのは、講師だけでなく、生徒の可能性もあるということです。
特に3つ目が今回のP2P型勉強会の肝でした。
これは、対話を大事にするスタイルを、いきなり自主的にやれ!と言っても、シャイな日本人には最初難しいと思ったので組み込みました。
一番早く最初の演習問題を終えた生徒は、講師にチェックをもらいに来ます。その時に、実際の実装を見てから「どのように実装しましたか?」「その実装の理由を答えてもらっていいですか?」と質問します。この対話が理解にとって重要だと思っています。それでOKだったら、チェックをし、その生徒にその生徒がチェック側になった時のオペレーションを伝えます。
生徒にもチェック担当になってもらうことで、講師がチェックする回数が減り、他の重要な質問に対応する時間が生まれます。また、生徒が生徒にチェックすることで、その時に発生する対話がまた理解を深めます。
(学びタイムの様子。生徒が対話をしながら進めている)
ポイント制の嬉しい誤算
チェックシートをよく見ると、ポイントというのが書いてあります。
実は最初、この勉強会では、ポイントを集めて一番多かった人には豪華賞品が...?という言い方をしました。いわゆる外発的動機付けというやつですね。しかし、最後、勉強会の終盤で、そろそろ打ち切らないと...という時に、ポイント集計してください!と伝えたのですが、ほとんどの人がすぐに行いませんでした。生徒は、ポイントよりも、目の前の学びを進めることの欲求の方が大きくなっていたのです。いわゆる内発的動機付けで学びを行っているのです。こちらとしては、一番嬉しい状態ですよね。生徒が自ら学びに対して積極的になっている状態でした。
飯より学び
また、もう一つ同じようなことがあって、勉強会の運営のヒラシマさんが「そろそろ、昼ごはんの時間にしましょうか」「みなさま、お昼ごはんの時間になりましたので、一旦出る準備をしてください」と呼びかけたところ、みんな教材を進めることに夢中になっていて、全く言うことを聞かないという状態になっていました(笑) 結局その45分後にみんなでご飯を買いに行くことになりました。
発表タイム
勉強会では、ただ勉強して終わりではなく、勉強した成果を発表する場も重要だと思っています。今回で言うと、Photonで作った作品を発表してもらいました。大事なのは、自分の作品を他者に認めてもらえたという経験だと思っています。
(発表タイム。オリジナルゲームの発表)
これは僕の経験談なのですが、特にプログラミングだと、自分がどれくらいできるのかとか、他の人に認めてもらえるかとかって自分で勉強しているだけだとわからない状態なんですね。それを勉強会で発表して、拍手してもらったり、フィードバックされる経験は、特に一番最初だった場合、すごく自信や今後のモチベーションになると思っています。
だから、ただ勉強するだけじゃなくて、発表して、フィードバックする時間は作りたいと思っていました。
今回の勉強会の感想
今回の勉強会で気づいたところは
- 講師が説明しなくても、教材と対話の力によって、生徒が最終的に高い理解力に達するのは可能だということ
- P2P型勉強会はどのレベルの生徒からも高く評価されうる方法だということ
- ちゃんと勉強会を設計すると、人は豪華賞品よりも、自らの学びを優先するということ
- 講師は、様々な質問に対し、生徒が満足する形で答える必要がある
です。今回僕自身も新しい発見もあり、充実した一日になりました。
今日考えたことは僕の経験を元に設計したところもありますが、
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から学んだところも大きかったです。興味ある方はAmazonでポチって買って読んでみてください!
最後に、このような機会をくださった、TECH_SALONの獅々見さんと、素敵なオフィスを準備してくださったヒトクセさんには感謝致したいです。ありがとうございました!